〇第12:提婆達多品(だいばだったほん)
提婆達多は、まさに「悪役」の代表です。教団内部にいながら、権力者・阿じゃ世王と結託して釈尊を亡きものにしようとした反逆者 が提婆達多です。その「大悪党」が成仏するというのが、法華経の提婆達多品です。提婆品では、この「悪人成仏」とともに、竜女の 成仏という「女人成仏」が説かれています。
提婆品では、はじめに、釈尊と提婆達多の過去世における因縁が説かれます。すなわち、釈尊が過去世に大国の王であったとき、菩薩 行を実践し、人民のために身命も財産も惜しまずに尽くしていました。しかし、王は、まだあきたらず、すべての人を救える大乗の法 をさらに求めます。王の求道心に応じて現れたのが、阿私仙人です。仙人は、自分の言葉通りに修行すれば、法華経を説こうと王に語 ります。王は歓喜して、水を汲み、薪を拾うなど、懸命に働いて仙人に仕えます。その修行が千年も続いたが、心に妙法を求めていた ので、心身ともに疲れることはなかった。その結果、遂に王は成仏します。このように過去のことを述べた釈尊は、過去世の師である 阿私仙人とは、じつは提婆達多であると種明かしをします。そして、今日、悟りを得て、広く衆生を救えるのも、提婆達多とい う「善知識」によるのである、と。また、その過去の因縁によって、提婆達多に対して未来無量劫の後に天王如来になる、という授記 が与えられます。
(提婆達多が、「善知識」になれたのは、釈尊が提婆達多に勝ったからです。もし、釈尊が負けたら、提婆達多は、悪のままです! 勝つということは、正義ということは、法を破るものを消し去るのではなく、彼らをも、善に導くことです。) 提婆達多への授記が終わると、多宝如来につてきた智積菩薩が本土(宝浄世界)に帰ろうとします。そこで、釈尊は智積を引きとめ、 「文殊師利菩薩と妙法について対話をしてから帰ったらどうか」と提案します。すると、大海の竜宮で弘教していた文殊師利菩薩が 、教化した多くの菩薩たちを引き連れて虚空会に出現します。そこで智積と文殊の対話が始まります。まず、智積が文殊に「あなた は竜宮でどのどのくらいの衆生を化導してきたのか」と尋ねます。文殊は「竜宮において、もっぱら法華経を説いて無量の衆生を化 導してきた」と言い、さらに「竜王の娘である八歳の竜女が法華経を聞いて即座に悟りを得た」と語ります。しかし、智積はそれを 信じようとしません。竜女は、釈尊に挨拶して言います。「仏のみが自分の成仏を知ってくださっています。私は大乗の教え(法華 経)を開いて、苦悩の衆生を救ってまいります」と誓うのです。今度は、舎利弗が、仏の悟りは長い苦行で得られるという固定観念 と、女性は梵天・帝釈・魔王・転輪聖王・仏になれないという「五障」の説から、不信を表明します。竜女は、三千大世界すなわち 宇宙全体の価値に等しい一つの宝珠を取り出して、釈尊に奉ります。釈尊はこれをただちに受け取ります。そして、竜女は、これを 見ていた舎利弗に対して、自分の成仏は、この宝珠の受け渡しよりも速やかなのだと言い放ちます。

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